「北海道を、どうやって
楽しもうかなと考えています」
旅の宿 パッチワーク
河野 剛さん | 京都府出身。中学、高校ではバスケット部に所属していたが高校2年からは誘われて柔道部へ。バスケットは社会人になってから、会社のチームにも所属していた。ファイナンシャルプランナーと宅建の資格を所有。京都に住んでいた時は、神社仏閣めぐりが趣味で御朱印を集めていた。ビールを飲みつつケンタッキーフライドチキンを食べての競馬観戦が至福の時。 |
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人ごみを離れ、思いきりバイクで走りたい。そんな願いをかなえた北海道ツーリングではじめてとほ宿へ。この時の旅で移住を視野に入れ始め、泊まり合わせた人との交流が印象的だったとほ宿を営むことに。旅の翌年には旭川に移り住み、さらにその翌年には宿を開業した。多趣味で、その中でもツーリング、ウインタースポーツを宿泊者と一緒に楽しめるようになることが当面の目標。素泊まりのみだが無料の朝食サービスあり。
移住、宿開業のきっかけは
解放感を味わった「はじめての」北海道旅
―バイクで北海道に来たことがきっかけで移住されたと伺ってます。
河野
実質的にはじめて来たのは2016年ですね。
―「実質的」と言うと?
河野
実は4年ぐらい札幌に住んでいたことがあるんです。
―そうだったんですか? ご出身は京都ですよね。
河野
はい。高校を卒業して自衛隊に入ったら札幌市内の駐屯地で募集があったんで、スキーをしたくて希望して来たんです。でもその頃の記憶と言えば、ススキノに飲みに通っていたことくらい…(笑)。あと1997年頃、大阪に住んでいる時に、友人と道東エリアにバイクで行ったんですけど毎日雨で、ずっと雨の中を走っていたこと以外記憶がない。だから16年に来たのが実質はじめてですね。
―はは。この時はなぜ北海道にバイクで来ようと思ったんですか?
河野
当時、自営で不動産業をしていたんですが、ちょうど在庫の物件が売れてなくなったので、ちょっと休みを取ろうと思って。大型バイクの免許を取ったこともあってツーリングに来たんです。京都を走ってるとごみごみしてるじゃないですか。だから思いっきり自由に走りたいなと思って北海道に行くかって。フェリーの往復を除いたら2泊の旅でした。
―思いっきり走れましたか?
河野
そうですね、気持ちよかったです。これがその時の写真です。
―きれいにまとめていますね~。
河野
こういうのを作りたくなるほど、この時の旅行がよかったんだと思います。この時、低料金で泊まれる宿を探していてはじめてとほ宿を知ったんです。「おかせん里」(美瑛町)と「旅の途中」(上富良野町)に泊まりました。
―どうでしたか?
河野
こういう宿ははじめてやったんで、みんなでわいわい雑談してっていう、こういう形態の宿はおもしろそうやなと思って。
―それが2016年ですよね。で、移住したのが…。
河野
2017年です。
―そして宿開業が…。
河野
2018年です。
―テンポよく進みましたね!
河野
北海道に行ってから、ちょっと違う生活をしてみたいなと思ったんです。京都でも、祇園に行ったり神社仏閣に行ったりとか楽しんでましたけど…道が混んでいたりしてバイクで走っていてもストレスがかかるじゃないですか。北海道で解放されたって感じですかね。
―そうでしたか。
河野
それで不動産の仕事を続けるために新しく物件を仕入れるか、移住か…と思っていたらこの家が見つかったんで。
ー迷いはなかったんですか?
河野
なかったですね。年齢的にも、行くんやったら今しかないかなって。体力のあるうちに。北海道を楽しむために行くんで(笑)。北海道で暮らしはじめた時、49歳でしたからね。開業したのは50歳です。
―しかも、それまでとは全く違う業種へ。
河野
何か仕事はしないといけないじゃないですか。すでに自営で商売をしていたんで、会社員っていう選択はなくて。ただ、また不動産をしようにも土地勘が全然ない。それで、おもしろそうやなと思ったとほ宿をはじめることにしたんです。
―宿の中でも「とほ宿」と最初から決めていたんですか?
河野
決めてました。ゲストハウスにも泊まってみたんですけど、なんか違うんですよね。やっぱり泊まり合わせた人とみんなでわいわい雑談して交流できるところがよかった。
―でも、とほ宿に2泊しての経験で移住から開業まで決めたっていうのもすごいと思いますよ(笑)。
河野
よう言われます(笑)。ほかの宿主さんは、若い頃にユースホステルとかとほ宿を泊まり歩いて、という方が多いですよね。僕はそういう人たちから見たら北海道の素人。北海道を楽しもうと思って来てますから。旅人さんにもいろいろ教えてもらっています。
―物件を探していたのは、この富良野、美瑛、旭川のエリアだったんですか?
河野
一応「北海道」で探してました。
―全域で⁉
河野
そうですね。建物を検索していいなと思うのがあったら、その周りの環境とか調べたりして。で絞り込んでいって。
―どういう条件で探したんですか?
河野
まぁ商売ができる環境。観光資源があるとか…。あと僕が道内あちこちバイクで行くにも便利な場所がいいし。
―あぁ、このあたりは北海道のちょうど中央に位置していますよね。
河野
この建物は空港もJRの駅も近いし。観光地だったら美瑛が近いし。あとガレージが大きかったんですよ。大型バイク10台止められます。
―いい条件の物件があってよかったですよね。
河野
ほか、小樽でもいいなと思う物件があったんですけどね。間取りとかガレージの広さとかが決め手でした。
―割と軽やかに北海道にいらした感じですね。
河野
そうですね、順を追っていったらそうなったっていう感じです。物件探して買って、準備してってやっていったら宿開業になった。大変やったのは役所関係と…はじめての冬!
―京都も雪は降りますよね?
河野
降っても5㎝くらいですから。北海道での最初の冬はすごい大雪で寒かったんですよ。ある日、出先から夜帰ってきてガレージに車を入れたら、天井から水が流れてるんです。何事かと思って上がって行ったら…1階の天井が水浸しになってて。2階のトイレの水道管が凍結して破裂してたんですよ。水の重みで天井の一部も落ちてしまって。
―あ~それはショックですね。
河野
「あ~もう終わった…」と思いました。ははは。雪解けまでは修理もできなくて。
―開業前にそれはつらい…。
河野
北海道の洗礼を受けました。まさに「試される大地」(1998~2016年の北海道のキャッチフレーズ)!
―そういう意味では…(笑)。
河野
ホンマに試されました(笑)。
趣味のスノボやバイクを
思い立ったら即楽しめる日々
―広いガレージにはバイク、そして隣の部屋にはウインドサーフィンにスキー、スノーボード、トレーニングマシン…! 河野さんの趣味がぎっしり詰まってますね~。北海道に来たのもバイクで、でしたが、いつから乗っているんですか?
河野
中型バイクは23歳くらいからかな。免許は札幌時代に取ったんですけど、当時移動は車か地下鉄で、バイクを買ったのはその後大阪の会社に勤めるようになってから。会社にツーリングチームがあったんで。
―じゃあその仲間とツーリングに出かけたりしていたんですね?
河野
そんな頻繁じゃなかったですけどね。交通量が多いんで、ツーリングに行こうっていう気にあまりならなくて。主に通勤に使っていました。大阪の時はウインドサーフィンばっかりしてたんです。25歳くらいではじめたのかな。人から誘われて。ウインドサーフィンは風に乗ってスピードが出ると気持ちいいし、海で乗っていると、太平洋ひとりぼっちみたいな感覚。そんなのなかなか味わえないですから。スノーボードをはじめたのもこの頃だと思います。当時は春から秋は琵琶湖や静岡の海でウインドサーフィン、冬は長野あたりでスノーボードって感じでしたね。
―移住してきてからはどうですか?
河野
ウインドサーフィンは行きたいと思いつつも、天気がいいとツーリングに出かけてしまうので(笑)、北海道に来てからは行けてないです。風が6m以上ないと楽しくないので、今年は天気予報をチェックして久しぶりに乗りたいですね。
―山関係のアウトドアだったら、この辺はアクセスもいいですよね。
河野
ホンマに恵まれてますよね。4、5時間かけて関西から長野にスキー、スノボしに行っていたことを思うと…(笑)。こっちに来てすぐの冬は、旭川市内のスキー場にアルバイトに行っていたんですけど、うれしくてスノーボードで滑りすぎたら…膝をおかしくしてしまって(笑)。正座もできへんし、立ち上がるのも「よっこいしょ」って感じ。けがと言うより疲労でしたね。
―気持ちはわかりますが(笑)。
河野
その次の年はアルバイトで忙しかったこともあって、ちょっとお休みして、先シーズンはずっと行きたいと思っていた旭岳に行くことができました。自然の中を滑るツリーランで、整備されたスキー場とは全く別。雲のようなパウダースノーと自然の地形を楽しみました。旭岳には花の時期にも行ったんですが、ロープウェイを使っての散策だったらハイキング感覚で行けますね。
―ここだったら、「今日は天気がいいから山に行こうかな?」くらいな感じですよね。
河野
そうですね。バイクも今日は天気いいからツーリングに行こうかなって。
―道内のツーリングには行けていますか?
河野
こっちに来てから旭川のツーリングチームに入りました。夏は忙しいので、あんまり参加できてないんですけど…チームの人らはここから稚内の宗谷岬まで日帰りで行きますからね。
―すごい! 片道250キロくらいありますけど。
河野
「あ、そういう所まで日帰りで行けるとこなんや」と思って(笑)。
―はは。本州との距離感はちょっと違うかもしれませんね。
満足して帰ってもらうため
できる限りのサービスを
―北海道ライフ楽しんでますね~。
河野
楽しむために来たんで(笑)。どうやって楽しもうかって感じですよね。今はお客さんからここはよかった、あそこはよかったっていう話をいろいろ聞いているところです。競馬見るのが好きやったんで、日高の方にも行きたいし。
―これからですよ!
河野
写真も趣味なんで、出かけた先でいろいろ撮影してます。
―カメラもいろいろお持ちですね。
河野
5、6年前にネットでミラーレスカメラを買って撮りはじめたらおもしろいなと思って。その後、ピントの確認がしやすい一眼レフを使うようになりました。
―ドローンまである。これは…。
河野
ジンバルですね。観光地ではこれにスマホを付けて持って撮影しています。ぶれないんですよ。お客さんにも画面を通して道内の観光地を紹介できていいかなと思って。
―新しく仕入れた北海道の情報をお客さんに還元できますね。
河野
僕はほとんど列車には乗らないんですけど、うちのお客さんは結構JRを使っていらっしゃる人が多くて、鉄道旅のことも勉強中です。車窓のきれいな所はバイクにも通じるものがあるのかなとも思うし。まぁ雑談している中でバイク雑誌見せて、「こういう所にも行けるから、次はバイクの免許を取ってバイクでおいでや」という話もしていますけどね(笑)。
―バイク愛好者を地道に増やそうとしてますね(笑)!
河野
はは。行動範囲も広くなるじゃないですか。お客さんともツーリングに行けるようになればいいんですけど…夏は忙しいんですよ。お客さんが帰りはった後、掃除、洗濯して次のお客さんのお迎えの用意してたら…。
―そうですよね。
河野
宿の仕事に慣れてきたら、少し自分の時間を作って、無理やりにでも休みを取れるようになったらいいですけど。冬やったらまだお客さん少ないやろし、一緒にスノボ、スキーをしに行けるかもしれないんですけどね。
ーこの宿のウリと言ったら何になるんでしょうか。
河野
まぁうちはガレージの広さと、寝室が広いことですかね。ゆっくり休んでくださいとしか言えないです。ご飯も出してないですし。
―素泊まりのみですが、無料の朝食サービスがありますよね。
河野
トーストとコーヒー、紅茶を出しています。
―これはご自身の旅先での経験を反映して、ですか?
河野
いや、何もないよりはあった方がいいかな、とふと思いついて。ほとんどのお客さんが召し上がって行かれます。みなさん、出かける時間もばらばらなんで、自由に食べてもらっています。
―うれしいサービスです!
河野
やっぱり来てもらったら喜んでもらいたい。北海道に来てよかったなって思ってもらいたいし、感動して帰ってもらいたいっていうところはあるじゃないですか。…だから雨の日とか申し訳なくてね。
―河野さんのせいじゃないですよ(笑)。
河野
そうなんですけど…。この前もひとり旅の女の人が雨の中来てくれて。土砂降りの中、美瑛へ。もう申し訳なくて。
―はは。
河野
バイクのお客さんも、少ない休みを調整してせっかく来たのに土砂降りで足止め食らったり。だから、タイミングが合えば、たこ焼きでもしてあげたりとか、近くの丘に連れて行ったりとか。
―こちら、住所は旭川市ですが、美瑛町との境にあって、車で5分くらい行くとパッチワークのような畑の景色を見ることができますよね。
河野
そうなんです。ただね…今、その美瑛の丘が僕の買い物ルートなんですよ。そうなると最初の感動が…(笑)。
―はは、確かに! 「パッチワーク」という宿名はこの建物を買ってから決めたんですか。
河野
そうですね、「パッチワークの丘」のすぐ隣なんで。あと、人生も思い出という「パッチ(ピース)」を集めたもの。旅もそのひとつですよね。その意味も込めての「パッチワーク」です。
―景色のことだけではなかったんですね。
河野
かっこよく言うたらそんな感じです(笑)。
2020.6.9
文・市村雅代